東京地方裁判所 平成10年(ワ)8482号 判決 1998年7月24日
東京都千代田区大手町一丁目二番一号
原告
三井物産株式会社
右代表者代表取締役
江島誠
右訴訟代理人弁護士
熊倉禎男
同
富岡英次
同
田中伸一郎
同
宮垣聡
同
岩瀬吉和
静岡県静岡市昭和町二番地の一
被告
静清信用金庫
右代表者代表理事
村上安男
右訴訟代理人弁護士
加藤静富
同
野末寿一
主文
一 被告は、別紙特許権目録記載の特許権について、別紙質権目録記載の質権設定登録の抹消登録手続をせよ。
二 訴訟費用は被告の負担とする。
事実
第一 請求
主文同旨
第二 当事者の主張
一 請求原因
1 原告は、別紙特許権目録記載の特許権を有している(以下「本件特許権」という。)。
2 本件特許権の特許登録原簿には、被告を質権者とする別紙質権目録記載の質権設定登録がされている(以下、別紙質権目録記載の質権設定登録を「本件質権設定登録」という。)。
3 本件特許権は、富士千橋梁土木株式会社を特許権者として、平成八年一〇月三日、設定登録され、その後、富士千橋梁土木株式会社から株式会社磯畑検査工業に移転され、平成九年一一月一七日、その旨の移転登録がされた。
本件質権設定登録は、右移転登録後にされたものである。質権設定は、特許権者である株式会社磯畑検査工業の質権設定行為に基づかなければ行い得ないが、本件においては、特許権者である株式会社磯畑検査工業が何ら関与していないにもかかわらず、本件質権設定登録がされた。したがって、本件質権設定登録は、特許権者の有効な質権設定行為によるものではないから、無効な登録である。
4 本件特許権は、株式会社磯畑検査工業から原告に移転され、平成一〇年二月二三日、その旨の移転登録がなされた。
5 よって、原告は、被告に対し、本件特許権に基づき、本件質権設定登録の抹消登録手続を求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1、2の事実は認める。
2 請求原因3のうち、本件特許権が、富士千橋梁土木株式会社を特許権者として、平成八年一〇月三日、設定登録されたこと、本件特許権につき、平成九年一一月一七日、富士千橋梁土木株式会社から株式会社磯畑検査工業への移転登録がなされたことは認め、その余の事実は否認し、主張は争う。
本件質権設定登録は、右移転登録に先立って、平成九年一一月一七日にされた。
3 請求原因4の事実のうち、本件特許権について、平成一〇年二月二三日、株式会社磯畑検査工業から原告への移転登録がされたことは認め、その余は不知。
理由
一 請求原因1、2の事実、請求原因3の事実のうち、本件特許権が、富士千橋梁土木株式会社を特許権者として、平成八年一〇月三日、設定登録されたこと、本件特許権につき、同年一一月一七日、富士千橋梁土木株式会社から株式会社磯畑検査工業への移転登録がされたこと、請求原因4の事実のうち、本件特許権について、平成一〇年二月二三日、株式会社磯畑検査工業から原告への移転登録がされたことは、当事者間に争いがない。
二 右当事者間に争いのない事実並びに甲第一ないし第四号証及び弁論の全趣旨によると、次の事実が認められる。
1 本件特許権は、平成八年一〇月三日、富士千橋梁土木株式会社を特許権者として設定登録された。
2(一) 富士千橋梁土木株式会社は、平成九年九月三日ころ、被告から、三億六〇〇〇万円を、弁済期平成一三年一月五日、利率年三・八七五パーセント、損害金の利率年一四・五パーセントの約定により借り受け、右金銭消費貸借契約に基づく債務を担保するため、本件特許権に質権(以下「本件質権」という。)を設定した。
(二) 富士千橋梁土木株式会社及び被告は、本件特許権につき質権設定登録の申請を行い、平成九年九月三日、受付番号〇〇三一八五として受け付けられたが、その後すぐに特許登録原簿に登録されることはなかった。
3 富士千橋梁土木株式会社は、平成九年九月一六日ころ、本件特許権を株式会社磯畑検査工業に移転し、同年一一月一七日、その旨の移転登録がされた。
4 その後、特許登録原簿に、前記2(二)の申請に基づく質権設定登録がされていないことが発見されたため、平成九年一二月一日、特許登録原簿に、主登録として初めて本件質権設定登録がされた。
5 本件質権設定登録につき、平成一〇年五月一五日、付記一号として、次のような職権更正の登録がされた。
職権更正
原因 平成九年一二月一日 遺漏発見
質権の設定登録の追加更正
職権更正
原因 平成一〇年五月一五日 遺漏発見
順位一番に登録すべき職権更正登録の追加更正
6 株式会社磯畑検査工業は、平成九年一一月二七日ころ、本件特許権を原告に移転し、平成一〇年二月二三日、その旨の移転登録がされた。
二1 右認定事実によると、本件質権設定登録が特許登録原簿に登録されたのは、平成九年一二月一日であるところ、質権設定の効力は登録によって生じ(特許法九八条一項三号)、同一の特許権その他特許に関する権利について登録した権利の順位は、登録の前後による(特許登録令六条)から、被告は、本件質権設定登録が特許登録原簿に登録される以前に本件特許権の移転登録を受けた株式会社磯畑検査工業に対して本件質権設定の効力を主張することができず、更に株式会社磯畑検査工業から本件特許権の移転登録を受けた原告に対しても、本件質権設定の効力を主張することができない。
2 前記一5認定のとおり、平成一〇年五月一五日、付記一号として、職権更正の登録がされたことにより、本件質権設定登録は、職権更正としてされたことになるが、職権更正としてされたとしても、本件質権設定登録は、平成九年一二月一日に初めて主登録としてされたものであって、その効力が遡ることはないから、右1の結論が左右されることはない。
3 そうすると、原告は、本件特許権に基づき、本件設定登録の抹消登録手続を求めることができるものというべきである。
三 よって、本訴請求は理由があるから、これを認容し、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 森義之 裁判官 榎戸道也 裁判官 中平健)
質権目録
受付年月日 平成九年九月三日
受付番号 〇〇三一八五
質権者 静岡県静岡市昭和町二番地の一 静清信用金庫
1.目的たる権利 特許 第二五六八九八七号
1.債権額 金三億六〇〇〇万円
1.弁済期 平成一三年一月五日
1.利息の定め 年三・八七五パーセント
1.違約金若しくは賠償の額 損害金 年一四・五〇〇パーセント
1.債務者 静岡県清水市庵原町一二一番地の一三
富士千橋梁土木株式会社
登録年月日 平成九年一一月一七日
特許権目録
特許番号 第二五六八九八七号
発明の名称 鉄筋組立用の支持部材並びにこれを用いた橋梁の施工方法
出願年月日 平成六年一二月一四日
登録年月日 平成八年一〇月三日